幕間-eine weitere Seite- Ein Schmerz



 世界はどんどん変わって行った。
 失ってみて気づいた世界がそこにあった。
 私には夢があった。でもその夢が、あとあと自分の求めるものでないことに気づいた。
 気づくのが遅すぎた。
 取り戻せない距離まで、夢は離れていった。
 諦めようと誓った。
 諦めるつもりだった。
 離れて、離れて。
 近くにいる存在を、どこまでも遠くに。
 でも、何があったんだろう。
 求めているものはどんどん近づいてきた。
 求めてもいないのに、いや、本当は嫌ってほど欲しいものだけど、欲していないのに、それはどんどん近づいてきた。
 どうして来るの?
 遠ざけたい。
 でも―――。
「アキラ、ちょっといいか?」
 私を名前で呼ぶ人がそこにいた。
 遠ざけたくて。
 遠ざけたくて―――。
 もっと遠くへ。
 誰にも映らないところへ。
 どれだけ遠くに行っても、彼は追いかけてくる。
 だからどこまでも遠ざけて。
 でも彼を追いかけていた。
 だけど―――。
 誰?
 彼の近くには誰かがいた。
 小さくてかわいい子だ。
 私には無い魅力を持っている。
 あの子は一体何?
 私は迷った。
 続く道を失っていった。
 逃げて、逃げて。
 遥か彼方まで逃げて。
 私には友達がいる。
 面だけじゃない友達がいる。
 それに縋る。
 縋りつく。
 それしか私には無くて。それしか助けてもらう術もなくて。
 でも私が泣けるところは、もう存在してなかった。
 世界を作って。
 私だけの世界を作ってそこで泣けばいい。
 それなら誰にも迷惑をかけないはずだ。
 そうだ。人を作ろう。私だけの世界に、私を認めてくれる人がいてくれてもいいんじゃないの、って。
 ようやくできた、私の世界は、いつしか私を必要としてくれるもので満たされた。
 だけど、この世界はいつか崩壊させよう。
 これは私の負の遺産なんだ。
 それまでこの世界に縋ろう。
 助けて―――。
 あっ―――。
 目の前で、私の追い続けていたものが誰かに取られてしまう気がした。
 嫌だ。
「そんなの嫌だ!」
 助けて。
 いやだよ。
 そんなの嫌だよ。
 私は自分の弱さを感じる。
 こんなんじゃいのに。
 自分に正直になればいい。それだけなのに、その心に気づいたら、自分がどこまでも弱くて、今まで頑張って、自分と社会言うレンガで積み上げてきたその自分が、あっという間に崩れ去ってしまう気がして。
 嫌だよ。
 そんなの嫌だよ―――。
 こんなことを考えてたら涙が溢れて。
 でも私はこんな涙を望んじゃいないのに。
 私を呼んで。
 そう願っても、今まで遠ざけてきた業なのかな。
 もう遅すぎたのかな。
 また考えると、涙が溢れてきた。
 泣きたくなんてない。こんな涙を流すくらいなら、いっそのこと、打ち明けた方がマシ。こんな涙を流すくらいなら、どこまでも遠くへ行った方がマシ。
 選べなくて立ち尽くすなんて格好悪くて、情けないのに。
 動けない。
 身動きが取れない。
 でもそんな涙を受け止めてくれる世界がある。
 私だけの世界。
 今は。今だけは―――。
 今だけは、この世界の傍らに座り込んで、眠ってもいいのかな。
 ひとつ気になることがあるんだ。
 あの子は、誰?
 ねぇ。答えてよ。
 って私が質問もしてないのに、答えてくれるわけも無いのに。
 あのバカに、私の何が解かるの?
 理解して欲しいのに、どうして心を覗かれまいと、煙をそこらぢゅうに撒き散らす必要があるというの?
 心を閉ざしても、追ってしまうのは何故?
 私が弱いからだ。
 私が強くあればいいんだ。
 そうだ。私が、私であればいいんだ。
 誰か力を貸して。
 誰か。
 そうだ。私の世界にも、私が欲しいよ。
 私の世界に、私を救い出してくれる人がいれば、私は強くなれるんじゃないの?
 一人で強くなれるんじゃないの?
 なんかずるい気がする。
 でも、それでも強くなれるんなら・・・。
「強くなりたいかい?」
 なりたいわ。
 私の願いを叶えるんだ。私が。
 私の理想は、どこまでも強くて、どこまでも私じゃない私。
 そんな私が欲しかった。
 それを認めてくれる、そんな世界が欲しかった。
 ただ、それを心のどこかで、ひっそりと望んだだけだった。



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