一章 Der silberne Himmel



 銀色の空に、彼女はいた。
 安藤。
 彼がこれより運命を変える鍵を持つ。
 きっかけは彼女にかけた、この一言からだったのか。
 いや、碁盤目の道路の帰路を誤ったせいか。
 それとも、もう運命の 線路 レール はとっくに引かれていたのだろうか。

「危ないよ」
 それはたった三分未満の邂逅だった。
帰り路。
「じゃぁ、受け止められる?」
「はぁ?」
通学路から帰る途中にある、街の古びた教会に、一人の少女がいた。
 というより、教会の屋根の上で遊んでいた。
 なんやら危ない。
 だから、声をかけた。
 それだけだった。
 少女が着てる服には、紺と蒼白の模様が見えた。
「お前、神酒qの生徒だよな。」
「そだよ。」
 とすぐに答えた。
「ここの教会の人?」
 と聞くと、
「違うよ。ただ登りたかったから。」
 と少女。
「・・・」
「お前、天然か?」
「さぁ?それとさっきから、お前お前ってムカつくんですけど!私には列記とした名前があるのだよ。」
「知らねぇよ!初対面だし。」
「それでも『君』とかって呼ばない?」
「んなこといったって。ってかお前誰だよ。少なくともうちらのクラスじゃないだろ。俺一年だからまだ学年の連中の名前なんて知らねぇし。」
 少女は少し笑みを浮かべた。
 まるで呪いをかけられるような。
「さて、誰でしょう?」
「知るか!」
「ん〜〜〜。ハルカちゃんの知名度はあまり知られてない様で。」
 ハルカ。
 少女はそう名乗った。
「受け止めて!」
 といきなり。
 飛び降りてきやがった。
 まぁ―――受け止められるわけもなく。
 というか圧し掛かられるような感じで、
「痛っ!」
 踏まれた。
 高さの低い教会とはいえ、一応3メートルくらいはある。そこから飛び降りられたら受け止めるほうも大変だ。
 少女は受け止めのクッションからそそくさと退くと、安藤の前に立った。
「ありがとう。安藤君!」
「いいって別に。でも危ないからあんなとこ登るな・・・。ってあれ?」
 安藤は一つ妙なことに気づく。
「なんでお前、俺の名前知ってんだ?」
「さて、何故でしょう?」
 少女はニコニコと笑っている。
 純粋で無垢な。そんな笑みでこちらを見つめてきている。
「ふふ〜ん」
「なんだ。気持ち悪い。」
「気持ち悪いとは失礼な!それから『お前』禁止!『ハルカ』と呼べ!」
「いや、いきなり名前からってどうなの?」
 話しづらい子だった。
 でも、なぜか引いたりもしなかった。
 ずっと前に会った気がする。もちろんそれは予感に過ぎないのだが。
 なんとなく。安藤はそんな気がしていた。
「あのさ、ハ、ハ、ハルカ。」
「合格!」
「え?」
 ハルカはニコニコ笑う。
 取り込まれてしまいそうな。そんな世界が見える。
 そんな感じがする。
「私、久保田ハルカ。1年C組だよ。」
「なんだ。一年だったのかよ。あぁ、俺はA組だよ。」
「うん。知ってる。」
「・・・」
 本当によく解からない。安藤は話せる女子が少ないせいもあるのか、戸惑った。
 というよりも、なんだろう。どうしようもない気分。
「冬が来る前にあなたに会いたかった。」
「?!」「どういうこと。」
 動揺した。
 会いたかった?
 なんだその言葉は。
 突然の出会い。初めての出会いのはずなのにここまでも話して、そしていきなり会いたかったといわれることがあるのだろうか。
「じゃぁね。また明日。」
 呆気に取られていたら、突然突風が吹いて、彼女は姿を消していた。
 笑えない。
 理解できない。
 意味解からない。
 それが僕らの出会いだったんだ。
 それはたった三分未満の邂逅だった。



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