序章 Ein durchsichtiger Traum



夜明けの色だった。

君が流した涙は夜明けの色をしてた。


空を見上げた。
見慣れた、空。
見上げた空は、いつもの空の色。
空の色は、いつも空の色。
そう。いろいろな空の色。
夜明けのあの色。

こんなに近くある色彩を、今まで僕は何故、あんなにまで遠く感じていたのだろうか。
オレンジに染まる朝焼け、東
そして漆黒の闇、西
その間に見える―――、
その間の―――、
間のなんとも表現のしづらい色。

インディゴと藍と瑠璃を混ぜたような色。
君の涙はそんな色をしていた。

冷たい頬。
口付けを交わしたら、僕まで凍りついてしまいそうなほど、君は冷たい。
でも、抱き寄せた君は、とても温かい。

僕よりも少し小さい君が僕よりも温かい体温を発していることが不思議に思えた。
冬の北国特有の、あまりにも遅すぎる、夜明け。
このままでは、君の涙が凍り付いてしまう。
涙だけじゃない。君も。

泣かないで―――

そう思って、力いっぱい君を抱きしめた。
それなのに、君からは涙が流れるように溢れ出てくる。そして大声で泣きたそうな、その泣き声を押し殺す際に漏れ出てくる掠れた声。
何故。
何故だろうか。
僕も泣きそうだ。

なんて格好の悪いことだろう。
目を瞑って、もう一度君と君と口付けを交わす。
一呼吸置こうと、離れて僕の目に写った君は笑顔だった。
笑顔に満ち溢れていた。
そして、流れ続ける君の涙は、夜明けのあの間のなんともいえない色彩を僕に視せていた。
吐く息が太陽に照らされる。

夜が明ける。
君の姿を映し出す。

僕の目には、ひたすらに白い景色にくっきりと、それでいて、ぼんやりと浮かぶ君だけが映る。
彼女が手を差し出す。
僕は差し伸べられた手を受け取る。
僕らは歩き出す。

同調する足跡の平行線。
色彩と君以外は、何もない。

やがて色彩は鮮やかに色を変えゆくだろう。
それでも君は、君でいられるように。

美しく綺麗な涙を流せることができる君でいられるように。



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